こんにちは、弁護士の加茂です。
フランチャイズシステムは、優れたビジネスモデルを効率的に展開する有効な手段です。自社で開発したビジネスモデルが優れており、これを広げていきたいと思っても、自社のみで展開していくには時間的・経済的コストを要し、一定の限界があります。そこで、フランチャイズシステムを利用すれば、加盟店の協力を得ることで、コストを抑えつつビジネスを効率的に拡大していくことが期待できます。こうして規模が拡大すれば、規模のメリット(スケールメリット)によって、より経営が効率化するという好循環も期待できます。
こうしたフランチャイズ本部の立ち上げには、法的な準備が欠かせません。なかでも特に重要なのが、①フランチャイズ契約書と②法定開示書面の作成です。
今回は、①フランチャイズ契約書にも簡単に触れつつ、②法定開示書面にスポットを当てて説明したいと思います。
【フランチャイズ契約書】
フランチャイズ契約書は、本部と加盟店の権利義務関係を定めるもので、ロイヤルティ、商標の使用許諾、本部の義務、加盟店の義務、競業避止義務、契約解除など、フランチャイズをめぐる権利義務に関する規定が盛り込まれます。この契約を締結することで、本部と加盟店はフランチャイザーとフランチャイジーとして法的な権利義務関係が生じることとなります。いわば、フランチャイズに関する本部と加盟店のルールブックであり、フランチャイズを展開するのに不可欠な書面です。
フランチャイズシステムは、本部が開発したビジネスモデルを加盟店でも利用できるようにするものであるところ、これにかかわる関係者も自ずと多くなります。権利義務関係も複雑となりやすく、自ずと法的なトラブルも生じやすくなりです。そのため、フランチャイズ本部の立ち上げにあたっては、ビジネスモデルを整理して、起こり得るリスクを慎重に分析し、できる限りリスクを回避・低減できるよう契約条項をビジネスモデルに合わせて工夫する必要があります。
【法定開示書面】
作成義務
一方、法定開示書面は、中小小売商業振興法11条に基づき、小売業と飲食業について加盟店募集の際に交付が義務付けられている重要書面です(情報開示書面とも呼ばれます。)。「小売業と飲食業について」としたように、小売業と飲食業以外のサービス業のフランチャイズには法的義務はありません。
但し、全業種のフランチャイズに適用される、公正取引委員会公表の「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」というガイドラインでは、法定開示書面について、「開示が的確に実施されることが望ましい」とされています。
ま、要するに、小売業と飲食業は法的義務だけど、それ以外のどの業種であっても、準備しておくべき書面なのです。
記載事項
法定開示書面で記載が求められる事項は以下の22項目です。結構詳細ですよね。
1.本部事業者の氏名及び住所、従業員の数(法人の場合は、その名称・住所・従業員の数・役員の役職名及び氏名) 2.本部事業者の資本の額又は出資の総額及び主要株主の氏名又は名称、他に事業を行っているときは、その種類 3.子会社の名称及び事業の種類 4.本部事業者の直近三事業年度の貸借対照表及び損益計算書 5.特定連鎖化事業の開始時期 6.直近の三事業年度における加盟者の店舗の数の推移 7.直近の五事業年度において、フランチャイズ契約に関する訴訟の件数 8.営業時間・営業日及び休業日 9.本部事業者が加盟者の店舗の周辺の地域に同一又は類似の店舗を営業又は他人に営業させる旨の規定の有無及びその内容 10.契約終了後、他の特定連鎖化事業への加盟禁止、類似事業への就業制限その他加盟者が営業禁止又は制限される規定の有無及びその内容 11.契約期間中・契約終了後、当該特定連鎖化事業について知り得た情報の開示を禁止又は制限する規定の有無及びその内容 12.加盟者から定期的に徴収する金銭に関する事項 13.加盟者から定期的に売上金の全部又は一部を送金させる場合はその時期及び方法 14.加盟者に対する金銭の貸付け又は貸付の斡旋を行う場合は、それに係る利率又は算定方法及びその他の条件 15.加盟者との一定期間の取引より生ずる債権債務の相殺によって発生する残額の全部又は一部に対して利率を附する場合は、利息に係る利率又は算定方法その他の条件 16.加盟者に対する特別義務 店舗構造又は内外装について加盟者に特別の義務を課すときは、その内容 17.契約に違反した場合に生じる金銭の支払いその他義務の内容 18.加盟に際し徴収する金銭に関する事項 19.加盟者に対する商品の販売条件に関する事項 20. 経営の指導に関する事項 21.使用される商標、商号その他の表示 22.契約の期間並びに契約の更新及び解除に関する事項
これらの情報開示は、加盟店保護と紛争予防の観点から重要です。加盟店はフランチャイズ本部の情報を事前に十分に知った上で加盟を判断する必要がありますが、本部と加盟店の情報量には大きな差があります。法定開示書面は、この情報の非対称性を是正し、加盟店の適切な判断を助ける役割を果たします。
記載内容に不備があったり、記載内容と実態とが合っていなかったりすると、加盟店とトラブルになりやすく、場合によっては損害賠償請求などの原因にもなりかねません。逆に、これらがしっかりしていれば、万一加盟店とトラブルになっても、「法定開示書面を渡してしっかり説明している」と説明しやすくなり、トラブルを円滑に回避することが期待できます。
注意事項
法定開示書面の作成にあたっては、以下の点に注意が必要です。
- 開示内容は正確かつ詳細に記載する
- フランチャイズ・パッケージ(契約書、マニュアル等)との整合性を確認する
- 開示内容と実態に齟齬がないよう、現状を正確に反映する
実際に準備をしてみるとよくわかるのですが、こうした整合性をとった記載をすることは、契約書作成に慣れている弁護士にとっても非常に大変で、難しいものです。加盟店と気持ちよくフランチャイズビジネスを展開するために重要な文書ですので、コストをかけてでも、この分野に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ:フランチャイズの立ち上げには①フランチャイズ契約書と②法定開示書面を準備しましょう!
以上のように、フランチャイズ契約書と法定開示書面は、表裏一体のものと言えます。フランチャイズ契約書が本部と加盟店の権利義務を定めるのに対し、法定開示書面は加盟前の重要情報の開示という役割を担います。トラブルを未然に防ぐためには、両者を慎重に作成し、内容の整合性を確保することが大切です。
法定開示書面の作成や、フランチャイズ契約書との整合性確保には、専門的な知識と経験が求められます。フランチャイズ本部の立ち上げを予定されている方は、ぜひ、この分野に精通した弁護士にフランチャイズ契約書や法定開示書面の作成を相談することをおすすめします。
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